偏愛ワルツ





あたしにとって、彼女はお人形だった。綺麗な服を着て、いつでも絹糸のような髪を煌めかせ、ちょこんと、それでいて堂々とそこに在る、愛らしいお人形。

なだらかで膨らんでいない小さな胸、細い手足に大きな瞳と、花びらみたいな唇。指の間を流れていきそうな黒髪と、血色のいい肌。

なにより、言われたことの一から十までを従順に聞き入れる素直さ。

私は、彼女を天使だと思っている。人間界に降り立ち、あたしを慰めるためにお人形さんをやってくれる。水色のワンピースがとてもお似合いだった。

「聞いてくれる?」

とあたしの隣でブランコに座る彼女は言った。

「なにを?」

「男の人のこと」

「いやよ」

即答した。

「あたしといる時に、男の話なんてしないで」

脳裏にあの金髪不良が浮かんで、彼女と一緒にいるのに、こめかみが痛くなった。眉間にしわが寄る。

彼女はまだ小学六年生だ。教師として、その年代の心の成長は著しいものだと理解していても、彼女には、成長しないでもらいたかった。

ずっと、天使でいてもらいたいのだ。

だから少なくとも、あの不良のような男の話だけは、彼女の口からは死んでもご免だった。

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