未来のない優しさ
ただ持っていただけでなく、指輪の輝きを見れば、大切に手入れしていたのがわかる…。

すぅっと寝息をたてながら眠る柚の胸元に、ゆっくりと指輪を戻す。

あの事故にあった時も身につけてたのか?

滅多にしない喧嘩をして、心にもない言葉を口にした。

『そんなに無理言うなら別れてもいいぞ』

そう言ってバス停に置き去りにした。
走り出したバスから、悲しい瞳で俺を見る柚がどんどん遠くなるにつれて後悔ばかりが溢れ出した。

けれど、バスケ部の合宿に向かう俺には戻る時間なんてなくて。

戻ったら謝って、抱きしめよう…。

そう思ううちに、柚の姿が見えなくなった。

この10分後に、バス停に立ちすくんだままの柚に車が突っ込んでくるなんて思わずに…。

この日を最後に、柚に会う事はなかった。

妹が、柚の弟と結婚する事になって俺の前に現れた柚を見た時。

隠していた罪悪感に包まれて、身動きがとれなかった…。
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