成長する




凄惨な事件を、作ったようにことさら難しい表情で伝えてくるニュースキャスターを眺めながら、

「三件目だってさ、お兄ちゃん」

美幸はトーストにバターを塗っていた。

四角いテーブルを挟んだ向かいでは、兄が先にパンをかじり始めている。じゃくり――という音がした。

メガネをかけている兄は、普段は優しいものの、朝は調子が悪い。少し不機嫌そうに見えるのは、低血圧だかららしかった。

天井近くにかかっている丸時計を見やる。時刻は七時を少し回っていた。

シンクの正面にある窓からは、真っ白い日光が注いでいた。今日もいい天気だ。

(学校には今日も余裕で間に合うなぁ~)

思いながら、美幸もパンにかじりつく。

じゃくり。

体内時計には自信があった。自慢するなら、ぴったり十秒や二十秒を当てることもできる。

じゃくり。じゃくり。

「なあ。美幸」

「なに?」

パンを飲み込んだ兄が、美幸を見た。朝食を取って目が覚め始めたのか、魚の目だったような瞳に、色がつく。
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