成長する
「っ」
ぼうっとしていた美幸は、ひたいを叩かれたような気がして顔をあげた。ハッと壁掛け時計を見やれば、すでに時計の長針と短針が綺麗な直線になっていた。

六時、ちょうど。兄が帰ってきたのはまだ、五時過ぎだったと思う。

「あ、あれ、私寝ちゃってた?」

自分でも気付かない疲れが溜まっていたんだろうか。そういえば今日は琴美の通夜に参列し、学校を抜け出し、謎の女性に会いに行ったりもした。疲れが溜まって、当然か。

「……そういえば、奈美ちゃん……」

これも疲れのせいか、親友がいないと気付くのが、我ながら遅かった。

椅子で眠ってしまったせいか、節々が微妙に痛む。立ち上がったとき少しだけ視界が眩み、美幸はうめいた。

それを、

「起きたのか、美幸」

ちょうどリビングへ入ってきた兄に見られた。

奈美を看ているときに汚れたのだろうか。帰ってきたときとはシャツが変わっている。

「おにいちゃ……うっ」

立ちくらみがひどい。美幸は立ち上がるのをよして、今まで座っていた椅子へまた腰を落とした。
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