ジュリエットに愛の花束を。


いっそ、なっちゃうかな。

透明人間。


「そうすれば、……樹だって迷わずにMSC行けるんだし。

あたしが、足かせなんだし……。

でもそんなのうぬぼれかな。……だといいのに」


感覚がなくなるほどに冷えた身体でも、

交通手段さえも忘れた脳でも。

松永の言葉だけはハッキリと記憶していて。


他の感覚も記憶もないからこそ、それだけがあたしを支配していた。


……ううん。逆なのかもしれない。

それだけがあたしを支配するから、他の事が追い出されたのかもしれない。


ため息にもならない重い気持ちが、思考回路を占拠する。


樹が、自分で考えて出した答えなら。

あたしが口出しするべき事じゃないだと思うし、尊重したい。


けど……、今回の事は、ちょっと事情が違う。

他の会社に入って、陸上を続けられる場所なんて、限られてる。



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