ジュリエットに愛の花束を。

看病



「……あれ、」


気がついて周りを見渡すと、そこが自分の部屋だって事が分かった。

暗い空に満月が出ていて、月明かりが部屋を照らしていた。

ひんやりとした空気が部屋を流れていて、火照って感じる顔に気持ちがいい。


身体を軽く起こそうとして……、握られたままの手に気付く。

あたしの手を握ったまま、ベッドに突っ伏して寝ている樹に微笑んで……樹が話していた事を思い出す。



『条件も、『MSC』と同じレベルか、それ以上。

給料だって同じくらいだし、この不景気ん中、ちゃんと利益上げてる会社だから。

支店は日本各地にあるけど、俺は県内にある本社勤務になるだろうから。

瑞希は心配する事なんか何もない』


そんなおいしい条件を出す会社が本当にあるのかな。


樹があんなにも真っ直ぐに言ってくれた言葉を疑うのは、決してあたしがあまのじゃくだからじゃないと思う。


だって、普通に考えたらそんな都合のいい話があるわけない。




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