ジュリエットに愛の花束を。

バルコニーから



※※※



『一度離れたら……きっと、もう出逢えないっ……』


液晶画面の中で、涙をポロポロ零した女優が言う。

つけっぱなしだったテレビは、今話題のドラマを映し出していた。


『心配しないで。……僕はキミを離したりしないから』


今日初めて見たドラマは、ストーリーの流れがまったく分からないけど、とりあえず、別れる別れないのシーンらしい。

夢を捨てて恋人といる事を選んだらしい彼氏が、彼女を優しく抱き締める。


どこか嘘くさいセリフにため息をついた時、後ろから抱き締めるようにして横になっていた樹が、あたしの顔を覗き込んだ。


いきなりアップになった樹の顔に、あたしは顔をしかめる。


「なに?」

「瑞希が泣いてんのかなって思って」

「泣かないよ。なんかあんまりリアルじゃないもん」


「そう?」なんて言いながら、樹はあたしの肩にキスを落とす。

まだ余韻の残る雰囲気に、甘ったるい気分が覚めようとしない。









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