白き砦〈レイオノレー〉
 王は玉座から首を伸ばして、広間を見渡した。

「だが、その公爵の姿がまだ見えぬようだが。今宵の祝典には顔を出すと、先ほど使いをよこしたが、いったいどこにおるのだろう。会ったら今日の礼を言わねばならんな」

 と、にわかに広間の入り口のあたりからどよめきがあがった。
 人々は扉口に現れた二つの人影を見ると、水を打ったように静まりかえった。



 奥深き森に隠れた深沼のような、深い緑色のローブをまとったフリーラインと、高貴な淡紫色の光を放つ夜会服に、ほっそりした身を包んだエレオノールとが、連れだって入ってきた。

その姿が、まるで天上の美神を映した絵ように美しかったので、人々はみな、われを忘れて二人の姿に見入った。

 上座の奥の方にいたエレオノールの親族たちは、あまりに思いがけない光景にわが目を疑った。

先刻、中庭で行方不明になったとて、家中の者たちを総動員して捜索させている当の本人が、よりによって外国の貴族に連れられてここに姿を現したのだ。


「あれは誰です? エレオノールを連れているのは?」

自身も初めて王宮に伺候したとて、貴族たちに面識のない兄のルドリュが父に尋ねた。

すると父の代わりに、教育係のルーヴィエが答えた。

「あの方はランスロット公爵さまとおっしゃられて、英国の貴族ですわ」

「英国の貴族だって? それなら敵国人のようなものじゃないか。そんな貴族が、どうしてフランスの宮廷に出入りできるのです?」

「あの方は英国人とはいわれても、実際はほとんど英国におられることはないそうですわ。
なんでも貿易があの方の生業ですとか。
英国の優れた航海術をたのみ、数え切れないほどの商船を率いて、各国と取引をなさっておられるそうです。
わが国には美術品と引き替えに、新大陸やアフリカの黄金をもたらされるとか。
それで陛下は、外国人には異例のことながら、ルーヴルの森の奥深くに公爵さまのためにお屋敷を下賜されて、
一日でも長くパリへ留まっていただこうとされておられるのです。
ですが公爵さまのお心は、いつも陛下の思し召し通りにはいかなくて、
気が向かなければ、たとえパリへ立ち寄ることがあっても、王宮にはご挨拶ひとつされないで、通り過ぎてゆかれるとか」

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