海風
プロローグ
 高校最後の夏休みが終わる1週間前、おれはみんなに言った。

「最後だし、海にいこうよ」

 ものすごく良いことを言ったと、その時は思った。
 だがしかし、予想外にも周りの反応は最悪だった。
 ――俺宿題がある。海? 遠いだろバカ!。海かー彼女、焼けるの嫌がるしなー、わりぃ……。海なんかより山だろ!

 おれの周りは空気の読めない奴らばかりだ……。

 だがそれも仕方ない。おれが住む地方は、山よりのなだらかな丘が並ぶ場所にあり、海はやや遠かった。車で約1時間、チャリでざっと3時間は掛かる。正直しんどい。


 だけど……


 だけど、来年おれはこの街を去る。


 学生じゃなくなる。


 夏休みは、ほんとにこれが最後なんだ。


 退屈を残したまま、なにもしないままいろんな最後を終わりたくなかった。


 何か、思い出を作ろう。いや作りたい。 


 自慢のチャリに股がり、両足に力を込める。周りには誰もいない。おれ一人だけだ。
 迷いはまったくなく、期待だけが胸いっぱいに広がっていた。


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