マイノリティー・レポート
第1回 コンプレックス
コンプレックス。
まぁ、誰しも「もう少し鼻が高ければ、」とか、「二重であれば、」とか、「頭の形がよく、髪質がよければ・・・」とか様々なことをお持ちだろう。

もちろん例外なく、僕自信にもそれはある。

僕のコンプレックスは、「足が遅いこと=運動能力のレベルの低さ」であった。
でもね、僕のこのコンプレックスは世を忍ぶ表向きのコンプレックスであり、自分の気持ちも痛まず、歪んだりもしない対人用のそれである。

本当のコンプレックスは自分のなかで辛いことであり、羞恥を感じることであり、また相当な努力でそれを覆い隠しているものである。
最後のものに関しては、努力の分だけ、屈折と嫌悪感からくる自分に対する憎悪が襲うこともあるだろう。

さて、僕が幼少のころからひた隠しにしているコンプレックスについてだけども、それは「認知の障害」である。

ちょっと変に難しく書いてしまったけれど、この「認知」という言葉をもう少し噛み砕いて説明を足すと、たとえば「左と右、北と南、プッシュとプル(押すと引く)」のがいまだに頭のなかで整理してからでないと反応できないことである。
さらに付け加えて「侍と待、田町と田端、目黒と目白」など、僕にはどっちがどっちなのかさっぱり分からない。

僕にとってそれらを頭のなかで整理するのには、たくさんの時間が必要となる。

もし感覚的に反応すると、結果として必ず逆になってしまう。
なんでこんなことが分からないのか、自分でも自分の頭が不自由に思うし、不憫に思う。

現代では「天然」という言葉で済まされるかも知れないが、僕が小学生のときには毎日、誰にも知られない手のひらに油性マジックで左手に「左」、右手に「右」と書いていた。運動会のときには膝にそれを書いて行進の練習をした。

いまだに、僕は自分のグローブでキャッチボールをしている自分を想像して、効き手を確認して「左と右」を区別している。

「こんなチープでプアーなマイノリティ・レポートは、僕だけのことだろうか?」
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