心の色
紙ヒコーキ
タケシは、まるで鳥かごで
飼われた鳥のように、
部屋に閉じこもった
毎日を送っていました。
とはいえ、鳥とは違い、
決して窓が開け放たれても、
そこから出ようとはせず、
自らの意思で、そのかごの中に
閉じこもっているのです。

「おはよう、タケちゃん、
今日の気分はどうだい?
下に降りて来れないかい?」

今日も、母方の祖母、カズヨが
ドアの向こうから
声を掛けてきました。
それは、既に日課とも
いうべき、光景でした。

「うん、熱っぽいみたい、
動きたくないよ。」

「じゃあ、後で朝ご飯置いとくから、
ちゃんと食べるんだよ。
あと、お薬もね。」

「うん。」

タケシは、ベッドに横たわり、
天井を見つめながら
答えました。
一日の内、何時間
この天井を見つめているだろうか。
こうして、憂鬱な一日が
過ぎていくのです。
 タケシは、生まれつき、
HIVウイルスに侵されています。 
HIVウイルスとは、
免疫細胞を破壊して、
後天的に
免疫不全症を起こす病気です。
この感染症には、
無症候期という
期間があり、
初め、急性感染期を
過ぎて症状が軽快し、
だいたい五年から十年は
無症状で過ごすのですが、
この間も、見た目は
健康そのものに見えるものの、
体内でHIVが
盛んに増殖を繰り返し、
免疫細胞を
破壊し続けていくのです。
そしてついに、
エイズに発病すると、
免疫力が更に低下して、
しつこい下痢やひどい寝汗、
理由のない急激な
体重減少などがおきます。
免疫力が殆ど
なくなっている為に、
健康な人では問題に
ならない種類のカビ、
原虫、細菌、
ウイルスなどによる
感染症や悪性腫瘍、
神経障害など、
様々な症状を引き起こし
、最終的に死に
至ってしまう
恐ろしい病気なのです。



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