心の色
父の誤算
 中澤医師を連れた
コウイチが病院に着くと、
真っ先に
タケシのこもる
薬剤室を目指しました。

「そこっ、どけろっ、
どけないと
痛い目に遭うぞっ。」

ただでさえ、
タケシがカオリを
連れて薬剤室に
立てこもっているというのに、
そこへ
中澤医師に
刃物を突き立てた
コウイチが現れ、
病院内は一層
ざわめき立ちました。
コウイチは、タケシが
閉じこもる薬剤室の
前に来ると、鍵の掛かった
ドアを叩きました。

「タケシッ、
中澤医師連れて来たぞっ、
開けてくれ。」

しかし、どんなに
ドアを叩いても、
叫んでも、
タケシからの返答はありません。

「まさかっ、タケシ…。」

コウイチは青ざまました。

 角膜手術を行い、
失明した目を蘇らせるのには、
角膜移植が必要なのです。
献眼登録者になっていた
人が亡くなった時、
その直後の角膜を
対象者に移植するのですが、
献眼登録者の少なさと、
献眼者が死後直後である事が
条件であり、
失明者に移植が回ってくる
可能性は
極めて低いのです。
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