【件名:ゴール裏にいます】
「千尋ちゃんトイレ大丈夫?行かなくていい?」
沙希ちゃんの気遣う言葉に首を横に振って大丈夫をアピールする千尋ちゃん。
大勢の人達が移動する様子をおっかなびっくり見ていた。
僕と沙希ちゃんは彼女を守るようにして両横に座っている。
「どう?サッカー面白い?」
千尋ちゃんはこの問い掛けにはさすがに首をかしげた。
応援しているチームに良いところが無いのに面白くもへったくれも無いと言うところであろうか。
「そうよね。こんなはずじゃ無いんだけど・・」
『11ばん かっこいい』
「わかる?千尋ちゃんにも吉田孝行のかっこ良さがわかるんだ!」
『ゆうじ にている』
「えー?似てるかなぁ?あ、でもちょっと似てるね」
僕は二人の『会話』を聞きながらふと視線を感じた。
(え?)
感じた視線の先に目をやると、メインスタンドの真ん中辺りに赤いドレスの女が立っていた。
(那比嘉翔子?)
遠すぎてはっきりと確認できた訳では無いが、この場所に相応しく無い赤いドレスの女はあの那比嘉さんに違い無かった。
「ちょっと僕トイレに行ってきますね」
「うん、行っトイレ」
「千尋ちゃん、おやじがいますよ。おやじギャグですよ」
そう言って立ち上がり、僕はメインスタンドをもう一度見渡したが、そこには赤いドレスの女はいなかった。
(あれ?)
僕は何とも言えない不思議な違和感を感じていた。
トイレの長い行列に並び、二人のいる場所に戻ると同時に後半戦が始まった。
「じゃあ、千尋ちゃん。さっき教えた通りにやってみようか?」
『トリニータッ!(ドドンドドンドン)』
「両手広げて! 拍手を5回っ!」
『トリニータッ!(ドドンドドンドン)』
「両手広げて! 拍手を5回っ!」
『「トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!』
「そうそう!上手いじゃん、千尋ちゃん!」
「凄い。千尋ちゃんはこれで立派なサポーターですよ!」
コールに合わせて、僕ら三人は選手達に力を送った。