あたしが眠りにつく前に
そう、自分といることで彼らまでが後ろ指ををさされないようにとの配慮ゆえ。たとえ一時期浅い溝ができたとしても、大切な友人であるのだから。

 今、帆高はどうしているだろう。珠結は手中の紙をグシャリと握りつぶした。

‘ひとでなし’

 赤マーカーの汚い文字で、殴り書きされていた。紙は帆高の机の中に貼られ、珠結が気付いてはがしたのはこれが初めてではない。

机の上に落書きされたり上履きや用具を捨てられたりるような、あからさまな行為ではないのはマシなのかもしれない。しかし程度がどうであれ、悪意は存在する。 不特定多数で寄ってたかって。どちらがひとでなしか分からないほどに、彼らは低脳で哀れだ。

 『気にする価値も無い』

 昨日の帆高は嘲笑(わら)って‘冷血漢’の紙を破り捨てた。その冷たい顔を思い出すと、珠結の中の怒りの感情は悲哀に転じた。いつまで続くというのだろう。珠結が溜息をこぼすと、教室の引き戸が勢いよく開いた。

「やほー。天下無敵の里紗様参上ッ」

「あら、天下無敵の里紗様。やほー」

「…ちょっとはツッこんでくれればいいのに~。オウム返しはつまんないよっ。そっち、終わるの早いね」

「掲示委員会は既製のポスターを古いのと張り替えて回るだけだからね」

 今日は週に一度の委員会活動がある曜日だ。5限後に掃除を行い、その後に委員会の時間を置き、各自終了毎に部活動または帰宅に移るという流れとなる。

「部活、行かなくていいの?」

「まだ始まってないから平気だよ~。おっと、はい、これ。すっごく面白かった!!」

 急に本を渡され、珠結はポカンとする。

「もしかして忘れてた? も~、放課後に返しに行くって昼休みに言ってたじゃんっ」

「ゴメンゴメン。また面白いの見つけたら、貸すからさ」

 頬を膨らませていた里紗は大きく頷き、はしゃいだ声を上げる。

「わーい、やった。ね、これも前に借りたのも、かなりマイナーだよね。よくこんな掘り出し物、見つけてくるな~って前から思ってたの。全部すーごく良かったよ!!」

「元は、帆高から薦められた本でね。あたしが気に入ったのを、里紗にも薦めてるだけ。あたしと里紗の感性は似ているみたいだね」
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