ほたるのなみだ
その人は俯いたまま、どうぞ、とだけ言った。

視線の先には、傷一つない、真新しい黒い携帯電話。


「携帯ピカピカですねえ。」


あたしが言うと、彼は顔を上げて視線をあたしに合わせた。

「今日買ったからさ、イマイチ使い方がわかんねえ。」


「え、買ったの今日なんですか!」


「そう、今日携帯車で踏んじゃってさあ…」

車にひかれた携帯を想像して、あたしは思わず笑った。

「あたしもよく携帯壊します。お風呂に落としたりとか、自転車で引いたりとか…」


「自転車で?」


「ジーンズとかのお尻のポッケに入れて自転車乗ってて、よく落としちゃうんです。で、あっ落としたってバックしてまたひいちゃう。」


「トドメさすんだ。」

あたしの話に、彼も笑った。

笑うと目尻が下がって、優しい顔になる人だと思った。
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