とりまー紀文

⑬ひきこもり「ゴエちゃん」 ヨークシャー・テリア

 ゴエモンは、よくホテルを利用してくれる。
私が部屋に行くと、ゴエモンは自分のハウスに入り、姿をみせてくれない。ごはんを持っていっても出て来ない。
しかし、私が部屋から出ていくと、すぐ「ムシャムシャ」と音がする。
ゴエモンは、すかさず出てきて食べているのである。
 先日のホテル利用の時、私が部屋に行くと、いつもはハウスにひきこもるのだが、珍しくベッドの上に寝たままだった。
「ナデナデ」…目もあけないで眠ったままだった。
疲れていたのか、具合がわるいのか、いつもと違う反応に心配になってしまった。
が、ごはんを置いて、私が出れば、すぐベッドから起き上がり、ムシャムシャ食べていた。
 1泊2日の予定、1日めの夜だった。
トイレ掃除に行くと、ゴエモンは、ハウスに入っていたのだが、その中から鼻にシワをよせ、「イー」と歯をみせ、威嚇しているような恐い顔で私をみた。
「ゴエちゃん」…呼んでみると、また同じ恐い顔。
「ゴエちゃん、こわいよ〜。」
やっぱり、馴れてくれなかったのかと、ちょっとがっかりした。
 2日め、部屋に行ってもベッドに寝たままのゴエモン。
「ナデナデ」…目もあけないで、眠ったままだった。
 その日の夜、お迎えに来られた飼主さんに、
「ゴエちゃん、前よりは馴れたかと思ったんですが、歯みせて恐い顔したんですよ。」と言ったら、飼主さんから意外な言葉が帰ってきた。
「あ〜あれは、喜んでいて、うれしい時に見せる顔なんですよ。他の人には、なかなか見せないんですよ。」と。
「!」びっくり…あの顔は、ゴエちゃんのスマイルだったのだ。
 年明けには、また、やってくる。
ゴエちゃんの初笑いをみれたら、なにか良い年のような気がする。
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