Memory's Piece

『もしも』をもし私がしていたなら、きっと彼女はこんな笑みを浮かべてはいなかっただろう。

あの時、誰かがじゃなくて私が彼女に手を差し延べるべきだったのに。

猫のように気まぐれでそれでいてさりげなく心優しい彼女。

彼女が困ったとき、今度は一番に手を差し延べる。

それが私の中でのルール。

彼女は強くて弱い。

たいていは全部をしょい込んでグッと我慢してしまうから。

彼女が抱えきれなくなったときに、その辛さの半分を背負うつもりだった。

これはただの自分勝手だ。

あの時何も出来なかった自分の罪滅ぼしがしたいだけ。

そんなこと彼女は別に望んでいないのに。





だから、彼女が私のもとへ来たとき。

内心、やっと罪滅ぼしが出来ると思ってしまった。

私は汚くて愚かな人間。

それなのに、彼女は昔と変わらず笑いかけてくれるのだ。

彼女に笑みを向けてもらえる資格など私にはないというのに。



突然私のテリトリーにやって来た彼女。

しばらくたわいない話をした後、全てを見届けて欲しい。と彼女は静かに言った。

自分に協力して。とも。

彼女の事を想えば止めなきゃいけなかった場面、私は笑いながら頷いた。


『しょうがないわね』

『アンタがいなくなれば清々するわ』


思ってもいない冷たい言葉。

でも彼女は満足そうに笑うのだ。

彼女が望む言葉を私が言ったから。

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