Limiter
30分ほどしてハヤトからミーティングが終わったと電話がきて、その数分後に彼はススマまで来てくれた。

来るのがあまりにも早くてびっくりした。
聖司とアフターを2回したことがあるが、そのときは2回とも2時間近く待たされたのだ。
だから今回も同じぐらい待たされるのだと思っていた。

ハヤトにその話をすると、
「そんなにミーティングかかるわけないじゃん。他のお客さんとアフターしてから行ってたんじゃないの?」
と言われてしまった。
店によってミーティング事情が違うのか、ハヤトの言う通り私のアフターは後回しにされていたのか…
今となってはどっちでもいいけどね。


しばらくススマで話していると、ハヤトのケータイに店から電話が掛かってきた。
どうやらブックが入っていた箱を持ち帰れということらしく、
私はハヤトと一緒に店へ戻ることにした。

さすがに営業後の店に客が入ることは躊躇われたので、エレベーター横にある階段の影に隠れてハヤトを待っていた。

しばらくしてから、ハヤトが誰かと話している声が聞こえてきた。


「……ラスソンのとき……少なくて……多くできたんじゃ…」

少し距離があるのでその声は途切れ途切れだった。
どうやらラスソンのとき、周りから声援を送る人数がいつもよりもあまりにも少なかったことについて、ハヤトが内勤に上申しているようだった。

内容が内容なだけに、私はかなり緊張した。
物音一つたてないように、階段の影にじっと身を潜める。
なんとなく客が聞いちゃいけない話だと思い、意識してあまり耳に入れないように努めた。

気にはなるけど、これは客が立ち入るべきことではない。
それよりも、こうやってきちんと上の人に意見を述べられるハヤトに関心した。
ただ言いなりになるような人では上には登れない。
ホストにとっての上とは言うまでもなくナンバー1だ。
ハヤトもこれからそこを目指すに違いない。
もしいずれハヤトがナンバー1になったら、
彼は変わってしまうのだろうか。
少なくともその頃には、新人という風情はもうどこにも見られないだろう。
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