将棋少女



サラサラとようやく仕事をし出した万年筆。


書き終わったのか万年筆は紙の上を滑るのを止め、再び胸ポケットへと戻る。


「はいコレ」


手渡されたそれは保健証明書。授業中に保健室にいた事を証明する紙だ。


僕は証明書を受け取り、立ち上がる。


不思議な事に体調の不具合は既にない。


気のせいだったのかな。とりあえず保健医に礼を言い教室に戻る事にした。


「あ、ひとつだけ言わせて」


ドアに手を掛けた所で保健医に声を掛けられて僕は振り返る。


「あの子は今、君だけが頼りだから。あの子を、お願いね」


「……」


何を今更。


僕は「わかってます」と返して保健室を出た。


廊下は、当然だけど誰もいなくて静かだ。


誰もいない。


人を喪失した時間。僕は廊下を歩きながら、ずっと香歩さんの事を考え続けた。



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