1000文字の話。
「えっ?」

『僕はサンタじゃ無いけどね。』

そう言って、少年は微笑む。

「本ト!?」

『うん…でもね?
ここには帰ってこられなくなるんだ。』

「じゃあ…パパとは会えなくなるの?」

『暫くはね。』

少年は、意味あり気に言った。

ヴィヴィアンは、一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。

「それでもいい。パパにはコートがいるもの。ママは、一人でいなくなったから、きっと寂しいと思うんだ。」

そう言って、開いたままのドアを見る。

『にゃあ。』

玄関には、自分を主張するかの様に鳴く猫が一匹、ちょこんと座っていた。

『そっか。じゃあ、行こう。』

「うん!」


少年は、ヴィヴィアンの右手を取ると、雪の中をずんずんと歩いて行く。

猫のコートは、何かを察したかの様に、悲しく鳴き続けたが、ヴィヴィアンは振り返る事無く、やがて白の中へ見えなくなった。


「おにぃちゃんの手、冷たいね。氷みたい。」

そう言って、ヴィヴィアンは小さな手袋を片方、少年に差し出した。

『貸してくれるの?』

「うん!」

『…ありがとう。優しいんだね。』

「ふふっ。」

ヴィヴィアンは、満足そうに笑った。




雪は、益々強まっていた。

口数の少なくなっていたヴィヴィアンが、ふいに口を開く。

「ママは…まだ遠い?」

『そうだね。』

少年は、前を見ながら答えた。


暫く歩くと、また、ヴィヴィアンが口を開く。

「ねぇ。眠くなって来ちゃったよ…」

『もう少しだよ。』

ヴィヴィアンは、力無く笑った。

それから少し進んだ所で、繋いでいた手が離れ、ヴィヴィアンは雪の上に、ぱさりと倒れた。

「おにぃちゃ…ママは…?」

『もうすぐさ。』

少年の言葉を聞いたヴィヴィアンは、弱々しく微笑み、そして目を閉じた。

(ママ…もうすぐ会えるんだ。)







次の日。

ヴィヴィアンは、道の端で、体が半分雪に埋もれて見つかった。

息は既に無かったが、左手に手袋をはめ、そして右手には、白い羽根を握りしめて、幸せそうに微笑んでいた。




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