1000文字の話。
【彼女】

―直感だった。

初めて彼女を見た時『赤が似合う』と思ったのだ。

白い肌に、漆黒の長い髪。薄いグリーンのワンピースを纏った彼女を見た瞬間、赤が似合う、と。

その日から僕は、彼女を目で追う様になった。
どこにいても、人目を引く完璧な容姿。
見つけるのなんて簡単だ。

駅のホームでも。
満員電車の中でも。
向かいで信号待ちをする姿も。

夜の暗い道でだって、彼女にスポットライトが当たっているかの様に、簡単に見つけ出せた。

出会って、二か月。

いいかげん僕は、彼女に声をかけようと思っていた。

見ているだけなんて物足りなかったし、何より僕と目があった時の彼女は何か言いたげだ。
彼女も僕と話したがっているに違いない。

ただ、彼女には勇気が無いのだ。
僕に話かける、勇気が。

僕は、この辺りで一番大きいデパートの中にある、ひとつのショップでプレゼントを買った。

彼女に似合うだろう、真っ赤なワンピース。
これを受け取った時の、彼女の反応が目に浮かぶ。きっと喜んでくれるに違いない。

真っ白な頬を、うっすらピンクに染めて、きらきら輝く笑顔を僕に向けてくれるだろう。
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