幸運の器
二人は、葵の住むマンションの前で一度立ち止まった。

「じゃあ、悠君送ってくれてありがとう。またね」

葵は手を振って、そのままマンションの中へと消えていく。

悠斗はしばらくその場に立ち尽くしていたが、少し肩をすくめると踵を返した。

「あーあ、オレってこんなに臆病者だったっけかな……」

悠斗は、あの日思わずキスしてしまって以来葵に手を出せずにいた。

しかし、悠斗はそんな今の状況に不満があるわけではない。

本当に、葵と一緒にいられるだけで、それでいいと思っている。


そんなことを考えながら俯き加減でとぼとぼと歩いていると悠斗の前に影がさした。

不審に思って顔を上げると、そこには意外な人物がいた。

「久しいな、桜井悠斗」

かわいい顔とは不釣合いな、その言葉遣い。

葵と出会ったその日に、もう一人出会っていた美少女、カノンだった。


~平穏な日々 完~
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