幸運の器
いい加減疲れてもう帰ろうかと思った時、意外な人物に出会った。

「悠斗?何してんだこんなところで?」

そこにいたのは、匠だった。

「匠こそ、こんなところで何やってんだよ」

悠斗は聞くともなしにそんな質問を匠に投げかけた。

「僕は、この近くでバイトしてるんだよ」

「バイト?へー、知らなかったな。何のバイトしてるんだ?」

「塾の講師だよ。結構時給もいいし時間の融通も利くからね」

匠は、いつもと変わらない。

悠斗は、わけもなく泣きそうになってきた。

「わりぃー、匠。オレちょっと用思い出したからもう行くわ」

「悠斗?」

不思議そうな顔をしている匠を残して、悠斗は足早にその場を離れた。

悠斗は、華音の言葉を思い出していた。

『お主の周りで急速に事態が動いている』

その言葉が俄かに現実味を帯びてきている。

悠斗は、どうしようもない喪失感に苛まれながら重い足を引きずるように帰路についた。



~壊れゆく日常 完~
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