心の距離

心の傷

彼女が口を開く事は無く、僕の手を握り締めたまま電車を乗り継ぎ、最寄り駅に着いた時、自然と彼女の手は離れた。

いつも別れている信号を通り過ぎ、スーパーの前を通り過ぎると、彼女はやっと口を開いた。

「あそこの小さいアパートなんです」

「凄い近いね。ヒデの家、アパートの先だよ」

「たまに見掛けますよ。彼女と歩いてる所。声かけないけど…」

「どうして?」

「彼女さん、凄く怖いから…いつも怒鳴り合いながら歩いてるの」

「…何かわかる気がする」

小さい呟くように告げ、彼女のアパートの階段を上った。

アパートの2階にある一番手前の部屋に入ると、清潔感溢れる香りが鼻を刺激した。

白いカーペットと、白いベッドのあるシンプルな1Kの部屋。

必要以上にデカく感じる壁掛けテレビの上に飾られた、コルクボードに貼られている写真やライブのチケット。

愛しい人の家に居ると思うだけで、必要以上に緊張し、さっき飲んだアルコールが、理性の糸を揺さぶりだした。

ガラステーブルの横にある、黄色いひよこのデカいぬいぐるみと、黄色いひよこの形をした座椅子を眺めながら何気なく聞いた。

「ひよこ好きなの?」

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