Hurly-Burly 【完】

***


ぷっちゅん

ズビーと鼻水を垂らす。

あはっ、お風呂から出たばっかり

だったのに窓開けてたからかな?

ジョセフィーヌが心配そうにあたしを見る。

お月様が遥か高くから見下ろしている。

春の夜か。

懐かしいな。

よく父ちゃんに抱っこされて

お月様を見たな。

手を伸ばせば届きそうなほどに、

絶対に届かないものか。

今の居場所もそれに近いかもしれない。

月に触れることなんてあたしには

一生かかっても無理だと思う。

宇宙飛行士になったら別かも

しれないけど、あたしはなれない。

卒業後はもう決まってる。

あたしが決めたことだから別に

嫌だなんて言えない。

一度、決めたことは何か歴史的

危機とかが起こらない限り変える

つもりはない。

それでも、最後まであたしは手を伸ばす

ことを諦めようとはしない。

ケータイの着信が鳴ってテーブル

の上に乗ったそれを取る。

画面を見ると見知った名前。

「大和さん」

あたしの声がポツリと部屋に響く。

「お、日和様、お元気ですか?」

その落ち着く声を聴くといつもの

非日常的なことも忘れて現実に

引き戻される。

「元気よ、母さんは?」

咳払いする大和さんの声は低くて

昔からよく聞いた声。

父さんよりもずっと若いのに、

父さんより落ち着いた人。
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