D i a r y

「あんたが死ぬ時、あたしも死ぬね」

そう、無邪気に言った
雨の言葉に嘘はないと思う。

いっそのこと、一緒に死んでくれ
と願えたならどんなに楽だっただろう。

愛した人がついてきてくれるなら、
愛した人をひとりにしないでいいのなら

それはおれにとってどんなに幸せだろう。


でも、

でも雨を奪えない。

雨を産み育てたご両親から、
雨を愛している家族の皆さんから、
雨が大切だという友達たちから。

血縁の家族もいなければ
数える程しか友人もいないおれとは
雨は違う。

雨から、奪えない。

物書きという夢を、
無限の可能性を、

雨から奪って、そうまでして
彼女を殺めたいわけがない。

一緒にいれなくなる、それでも

雨は生きてなきゃいけない。

だから雨を壊せない。

今のおれにできるのは
雨に気づかれないように
ひとりで死んで行くことだけだ。


「幸せでいてね」

電話を切る間際の雨の声が

鼓膜に刻まれて胸が痛い。





2006.11.22 雨のいない幸せなんて

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