僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


「俺、虐待されてたんだよ」

「――…え?」


有須の声が遠くに聞こえたのに、祠稀の発した言葉だけは、今も耳の奥で聞こえた気がした。


……紫煙のせいかな。

目の前が、霞む。


「つっても中2ぐらいまで? さすがに力付いてる頃じゃん? 反攻できるくらいにはなったわけよ」


祠稀……それが、過去?


「俺んちって、英才教育っつーの? 母親がいいとこのお嬢さんで、父親が名門校の教頭やってて。すげー厳しかったんだよ。ああしろこうしろってうるさくて、できないと殴られて」


笑って話せる、過去?


「兄貴がいるんだけど、これがまた反吐出るくらいできた兄貴でさ。それ必然的に比べられんじゃん? だから余計できそこないの俺に腹立つっていう、この無限ループ」


祠稀が灰を落とすたび、過去を捨てているように感じた。思い出したくもない、でも忘れはしないだろう記憶を。


黒く塗り潰したくても、きっと灰色にしか染まらない記憶。


「俺、元々こんなんで。口悪くて、クソ生意気な感じ? けど昔はやり返すより、無視するほうが楽だったんだよ」


……何が、俺と有須とは別ものなんだ。


確かに祠稀は俺や有須がしていたことを、やってるわけじゃないと思う。


でも、抱えているものは一緒なんじゃないの? 感じた想いは、同じなんじゃないの?

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