空をなくしたその先に
「まったく……人の情事を盗み聞くその癖どうにかならんか?」


カーマイン商会の列車には、すべての部屋に盗聴機がしかけられている。

イレーヌの部屋ではそのすべてを聞くことができるようになっていた。

苦笑混じりのフレディに、しれっとしてイレーヌは微笑んでみせる。

お互いの息が混ざるほどの距離から。

するりと腕をほどいて、彼女はグラスを取り上げた。


「大切な話は情事の後と相場が決まっていますもの。それに」
目元に掲げたグラスの向こう側から、フレディを流し見てイレーヌは笑う。


「男の人なんて信用できない。
情事は物語の世界で楽しむか、人様のを聞いてのぞいて楽しむか。

そうでしょう?」

「信用していない男は俺以外、だろ?」


同じようにグラスを目元に掲げて、彼も返した。


「あなたは唯一の例外ですわね。あなただけは信用しているわ。心の底から」


真剣な口調のイレーヌに、鼻で笑っておいてフレディは立ち上がる。
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