虹色ハート
 夜、テレビで神の手と呼ばれる医師が心臓病の子供を手術する特集番組があったそうです。
 だけど、アンナはまだ他の病院への搬送や手術に耐えれる身体じゃありません。
 手術を行える元気があるなら、神の手と言われる医師に執刀して欲しい。
 実際は小さな手術すら困難な状況なんだ。

 30代の人が自分の闘病生活を携帯小説で残して亡くなったそうです。
 パパとママは番組の中で放送されたそのお話を複雑な気持ちで観ていました。
「この人は結婚まで出来たんだからいい、アンナは親に抱かれた事すらない」
 パパが悔しそうに呟きました。
 何かが出来たから、何十歳まで生きたから、もう死んでもいいなどという事はありません。
 アンナは母のおっぱいの味も知らず、両親の腕の温もりや姉の顔も知らず、言葉も話せず、勉強や遊びさえも出来ません。
 この世に誕生してから苦しみばかりのアンナが不憫で仕方なかったのだと思います。
 いつもママやおねえちゃんやアンナの前では冗談ばかり言っていたのに、これがパパの綺麗事抜きの本音なのでしょう。

 ママはこういう特集番組が好きでした。
 生と死を考えたり、病気の人の気持ちを聞いたり、命の尊さに気付かせてくれます。
 でも、涙を流しても所詮は他人事なのです。
 ここに出ている親子に近い状況に自分達家族がいて、同じような死がすぐ近い所にあるという事実。
 自分達の生き様を観るようで怖くなり、思わず子供の死ぬ瞬間にテレビから目を背けてしまいました。
 テレビの中の可哀相なお話が決して他人事でないと知らされました。

 アンナは今日も頑張ったよ。
 毎日を精一杯に生きています。
 ちっぽけな体で耐えています。
 こんなに生き続けようと必死です。
 だからアンナを治して下さい。
 神様、お願いします。

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