美女の危険な香り
第8章
    8
 午前中の時間は大概早く過ぎていく。


 秘書課の女の子たちがランチに出かける様子が、俺の執務する場所である社長室にまで聞こえてきた。


 俺は区切りとなる書類にまで目を通し、午前中の仕事を片付け、脱いでハンガーに掛けていた背広を手に取る。
 

 羽織ってから社長室のキーを持ち、午後の定例会議にまでは帰ってこないといけないなと思って、幾分慌しく歩き出す。


 六本木の街は今日も騒がしい。


 ヒルズもちょっと前とは様変わりしていた。


 確かに六本木ヒルズのど真ん中で粉飾決算をして、地検に強制捜査に入られてしまい、自分も捕まってしまった元IT企業の社長は今何をしているのか知らない。


 テレビにも出なければ、俺が仕事の合間に読む経済紙などにも彼の動向が全く記されてないところを見ると、おそらく毎日何もせずに淡々と過ごしているのだろう。


 俺はあの拝金(はいきん)主義の社長が捕まる前から、この六本木にいた。


 父信太郎から経営学に関して、徹底して仕込まれた。
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