甘い魔法―先生とあたしの恋―


なんでこんな風になっちゃったのかな……。

啓太の不機嫌そうな冷たい声を聞くと、いつかぶたれた左の頬が鈍く痛み出す。


数回では収まらない回数殴られた事実に、また深いため息が漏れた。

なんで……なんで啓太は……、



「……彼氏か?」

「!?」


急に聞こえてきた声に、あたしは勢いよく立ちあがりクローゼットに手を掛けた。

ギィィ、と嫌な音を立てたクローゼットに、顔をしかめながら中を覗くと……。


「え、……ちょっとっ、何やってんの?!」

「何って、仕事。やってらんねぇよなぁ……春休みまで仕事だし。

しかも赴任したばっかなのに仕事ってありえねぇだろ。人使い荒……」

「そうじゃなくて!」


苦笑いを向けてくる矢野の話半分に、あたしは視線を固定したままそれを遮る。

あたしの視線を一身に集める白いノートパソコン。

別にノートパソコンがどうこう言ってるんじゃない。

問題なのは……それが置いてある場所。


なんで、あたしのクローゼットの上に置いてんの?


「このクローゼットあたしの部屋のでしょ? 勝手に使わないでよ」

「ああ、まぁそんな細かい事気にすんなよ。

パソコンラック買おうと思ってたところだったんだよな。

そしたら市川が壁に穴開けて丁度いいラックを作ってくれたから、これ使わない手はないだろ。

あ、代わりに好きな時にパソコン使わせてやるからさ」

「……」


パソコンを好きな時に……。

魅力的な交換条件を出されて、あたしは少し納得いかないまま考え込む。



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