甘い魔法―先生とあたしの恋―
ここが「寮」として使われていない事は、もうなんとなく気付いてた。
1年の時からこの学校に通っているけど、寮の存在なんか聞いた事がないもん。
……多分、お父さんが学校に無理言ってあたしを頼み込んだんだろうな。
いくら寄付金出したんだか知らないけど、きっとそれを理由に頷かせたに決まってる。
……市会議員ってそんなに儲かるわけ?
そんなに、あたしが邪魔だったわけ……?
面白くない気持ちに、不意に過去の出来事が頭をよぎる。
たくさんの思い出の中の1コマなのに、消えようとしない過去。
もやもやとしてきた気持ちに、あたしは唇を噛み締めた。
そして、そんな思いを振り切るようにいちいち煩い階段を上がりきった。
おばさんの言う通り、2階には部屋が2つしかなかった。
あー、本当だったんだー……、なんて別の意味で感動しながら目の前の部屋に視線を移す。
『202』
あたしの部屋になるらしい部屋の前に立ってドアノブを回そうとして……、
鍵が掛かってる事に気付いた。
……管理人にもらえって事だよね?
初めての1人暮らしに、なんだか慣れない事だらけで。
とりあえず部屋の前に荷物を置いてから、左隣の部屋の前に立った。
そして……少し緊張しながらドアを3回ノックする。
しばらく静かだった部屋の中から微かに音が聞こえて……ドアが開けられた。