甘い魔法―先生とあたしの恋―
段を踏み外す事はなかったため、それにほっとするも……。
打撲みたいな痛みが足に走る。
「いってぇ……」
「大丈夫ですか? 矢野先生……立てますか?」
「あ、大丈夫です。馬場先生、もうここで大丈夫ですから……」
「いえっ、お部屋まで送りますっ」
「……そうですか」
引こうとしない馬場先生に少しうんざりしつつも、アルコールの回った身体は支えなしには真っ直ぐ歩く事も困難だった。
仕方なしに馬場先生の手を借りながら立ち上がろうとした時……
「……どうしたんですか?」
階段の上から、市川の声が聞こえた。
誰よりも、愛しい声が―――……
「あ、ちょっと手伝ってもらえる?
矢野先生、飲み過ぎちゃって……」
「……はい」
俺が見上げるよりも先に言った馬場先生に、市川が階段を下りてきて……
俺の左側に回って、腕を掴む。
右からは、馬場先生が同じようにして支えて、階段を上がる。