甘い魔法―先生とあたしの恋―
クローゼットの向こうで音がする。
少ししてから、不思議そうに表情を歪めた市川が顔を覗かせた。
「……なに?」
「……まぁ、座れよ」
「いや、おかしいじゃん。なに? 話?」
納得いかなそうな市川に、さっき冷蔵庫から出したばかりのゼリーを一つ差し出す。
「いいから付き合えよ」
「……ゼリーに付き合うってなに?」
クスクスと笑う市川が、俺の手からゼリーを抜き取る。
そして、市川が赤い椅子に腰を下ろしたところで、本題を切り出した。
「今日……昼休みに、市川が女子生徒に色々言われてるの見ちゃってさ」
そこまで言うと、市川の顔つきが少しだけ変わる。
強張った、少し怯えてるような顔に。
「昼休みって……ああ、お母さんの事?」
視線を手に持ったゼリーに落とす市川は、今思い出したかのように演じてるようだった。
そんな市川に、話を続ける。
「ああ。……あれ、本当なんだろ?
別に俺には関係ねぇけど……なんか気になってさ」
「『詮索はなし』じゃなかったの?」
「……そのつもりだったんだけどな」
「ゼリーで釣れるとでも思った?」
「アホか。……そんなつもりじゃねぇよ。ただ……気になるだけだ」
わざと茶化そうとする市川に、真面目な声で否定の言葉を口にした。