甘い魔法―先生とあたしの恋―


「迷惑って……親なんか子供に迷惑かけられるためにいるようなもんだろ?

親だってそれ望んでんじゃねぇの?

おまえまだ高校生なんだから遠慮なんかしてねぇでもっと……」

「だってっ……」


俺の言葉を、少し強い口調で市川が遮った。

さっきとは違う口調と雰囲気に黙っていると、市川が少し震える声で続けた。


「こないだ言ったじゃん……。

あたしにはもうお父さんしかいないんだよ……?

お父さんに面倒くさがられて、嫌われたら……あたし、どうしていいかわかんないもん……」

「……―――」

「だから……そうならないように、ちゃんと頑張るしかないんだもん……」


市川の震える声は次第に小さくなっていって、消え入りそうだった。


市川が静かに涙を流している事に、気配で気付いた。


だけど、なんて声を掛けてやればいいのか分からなくて。

市川自身も涙に気付いて欲しくないような気がして……。

俺はくすぶる思いを感じながらも口を閉じた。



少し、戸惑ってた。

毎日顔を合わせてるのに、市川がそんな風に考えてるなんてちっとも気付かなかった。

普段の市川からは、想像もできなかった。


俺の見る限りの市川は、結構しっかりしていて冷静で落ち着いてて、少しつっぱってて。


家族の存在なんてそれほど大事に思っていないんじゃないかってくらいに、家族の話をしなかった。

寂しいだとか、不便だとか、寮の生活に文句すら言わなかった。


だけど、それは……必死に隠してたって事か?


寂しさだとか、恐さだとかを隠して―――……?





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