月見山の巫女
ふと、浅香は違和感を感じ皐月を見た。

あぐらを掻いた足の一方に肘を置き、頬杖をつく姿はいつもと変わらない。

しかし、表情が違った。無表情で床をぼーっと眺めていた。

「…何、怒ってるの?」


問掛けると、皐月は浅香が手にしているビニール袋を指差す。


「それ、お前にやるよ。」

中を見ると菓子パンが3つ入っていた。どうやら昼食を買ってきてくれたらしい。


「ありがとう。」


素直に礼を述べると、別に…とそっけない返事が返って来る。

皐月の顔は無表情のまま。普段はあまりみられない様子に、浅香は少し動揺していた。


(…初めて喋った時以来かな。)


――この春、高校1年生となった浅香は授業をほぼ睡眠に費やしていた。

それは、席が窓側にあり暖かな陽射しが常に降り注いでいるからという理由もあるが、浅香の場合ただ単に眠るのが好きなだけである。

しかし当然、先生からはよく注意を受ける。職員室に呼び出されることもしばしば。浅香自身も多少の罪悪感はあり、起きていようとは思うものの、やはり欲には勝てなかった。

< 5 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop