【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー


おばあちゃんは、その後も
お代の事を気にしていたが
チーフの絶対に受け取ろうと
しない態度に再び頭を下げ、
有難うと言って、絞り染めの
カバンの中から店内に居る
人数分の飴玉を取り出して
チーフに差し出した。

『有難うございます♪
丁度、お店の中が乾燥して
喉がイガイガしていたんです。
頂戴しますね。』

そう言って一つ包みを
ほどいてチーフが口の中に
飴玉を放り込んだ。

カット代の代金をカウンターで
支払い、おばあちゃんは
可愛らしい少女の笑顔で
店を後にした。

その背中はほんの少し
伸び、
心なしか本当に十は若く
見えた気がした。

麗子はチーフが本当に
魔法使いなのかも知れないと
思った一瞬だった。

美容室でこんなに毎回
ドラマがあるなんて‥
人は誰も皆、何かしら
悩みや哀しみを抱えている
ものなのだなぁと改めて
感じたひとときだった。

何だか急に田舎の
おばあちゃんが恋しく
なった。

麗子はテーブルにあった
ボックスティッシュから
2~3枚ティッシュを取ると、
なるべく音を立てない様に
鼻をかんだ。

チーン#

思った以上にその音は
店内に響いていた。


ハートフルストーリーが

ぶち壊しじゃー!


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