愛の手

総司さんは優しく抱きしめた。


「……周防さんがいます」

「かまうもんか」


総司さんがかまわなくても、あたしはかまうんだけど……?


逃れたくても、背中にまわされた腕の強さにかなうはずがなかった。




「昔、お前が泣いてたとき、よく海に連れてったから」


総司さんが、“お兄ちゃん”だったとき。

よくイジメられてたあたしは、総司さんを頼ってよく胸の中で泣いた。


服をグシャグシャに濡らしても怒らなかった、ダイスキなお兄ちゃん。



「海に連れてくと、すぐ泣きやんだからな」

「そう、でしたっけ?」


覚えてない。

総司さんが海に連れてってくれてたの?


あたしは両親といったんだと思ってた。

それは小さいころの、曖昧な記憶で――



初恋の人が連れてってくれてたから、あたしは海がダイスキなのかもしれない。

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