サルビアの妄言


『実は周に隠していた事があるのよ。』

窓からの光に照らされる愛しい人が、俺に背を向けながら突然そんな発言をした。

「何?」

俺がその背中に問い掛けると、小さな深呼吸をするのが聞こえた後、少しの時間をあけてその人は答えた。

『私には婚約者がいるのよ』

「は?何言って……冗談だろ?」

『冗談なんかじゃないわ』

一瞬時が止まった感じがして、俺は固まる。
信じたくない。その手を離したくない。
じゃあ今までは何だったのだろう。

「俺と付き合ってたのは遊びだったのか?」

焦りや不安の中、俺はまた小さな背中に問い掛ける。

『違うわ、遊びなんかじゃない。
今だって周の事が誰よりも好き。』

「っ!じゃあどうして…」

『…大人の事情よ。』

大人の事情…?
何だよソレ。
訳が分からない。
冗談だろ?
いつもみたいな笑顔で嘘だと言ってほしい。

「そんな理由…納得出来るわけないだろ?!」

『……。』

「!!なんでっ、何で俺に何も言ってくれないんだよ!朔春!」

『……っごめんなさい、ごめんなさい周。』

何で謝るんだろう。
どうして君は泣いているんだろう。
ガキの俺にはまだ分からない。

だって君と俺では10も歳が離れている。
理由も分からない。
何も分からない。

俺には分かるわけもない。




さくは
サクハ
朔春

俺の側を離れないで
俺を置いて行かないでくれ


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