粉雪-3年後のクリスマス-
「……ユキ…?」


 コインを差し出されて何も反応できない俺を見て、カノジョは次第に状況を把握する。


そしてはじめてのクリスマスは──…


「苦手なら最初から言ってよね!」



 情けないことに怒られるはめになった。

そのあと機嫌を直してもらうのにどれだけ謝ったことか……。


「……寒いな…」

 改札を慣れたように通り、人が混み合うホームはなぜか少し、ほっとした。



 フラれた直後だからなのか、妙にカノジョを思い出してしまう。


 あの時プレゼントしたネックレスは、ごみ箱行きになるのだろうか。

雑踏は耳にすら入らず、ただただ、思い出に浸っていた。



 俺がろくにできもしない料理を作ったせいで、焦がしてしまったフライパン。


 掃除機に吸われたカーテンを力付くで無理矢理引き剥がしたら、歪んでしまったカーテンレール。



 どれも、もう見ることはできないのに。


「思い出したくないのになぁ……」


 つぶやいた小さな声は、まもなく反対側の電車がやってくることを知らせるアナウンスにかき消された。



 もう、あの部屋へはいけない。

誰も待ってくれはしないのだ。


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