【短編】淫らに冷たく極上に甘く

「ちょっと待ってよ」

「……」

「待ってってば、白崎くん!」

「……」



私の声を無視してどんどん進んでいく。

これが彼の普段の歩幅なんだ。



「待ってって言ってるでしょ! ……はーちゃん!!」



あっ。滑った。



「……春斗」

「え?」

「春斗って呼べよ」



態勢を立て直して振り向いた彼は無表情で私にそう言って、また歩きだした。


だけど、今度は違った。

私の歩幅に合わせて歩いてくれていた。

たったそれだけのことなのに、嬉しくて頬が緩んでいく。



「春斗」

「何?」

「思い出したよ、全部。ごめん、忘れてて……キャッ!!」



彼の指が私の手を捉える。

自然と絡まった指が優しく私の手を包んでゆく。



“春斗って名前なの? じゃあ、はーちゃん、ね”

そう言ったのは私。


“アイちゃんと会えなくなるの嫌だ”

そう言って別れ際に大泣きしたのは彼。


あの時のあの子がここにいて、今一緒に手を繋いで歩いている。


こんな偶然があるものなのかと不思議で、そんな再会に運命を感じられずにはいられない。

だなんて少女漫画の見すぎだ……私。



「どうせあいつらに全部聞いたんだろ?」



大きくため息をつく彼を見上げて首を横に振り、私は左手でバッグに忍ばせていた写真を取り出した。



「おとつい、これ見つけたの」





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