【短編】淫らに冷たく極上に甘く
“ターゲット逃亡”



“ターゲット逃亡”


――――――
――――


降り積もった雪が辺り一面を覆いつくし、足がとられてすぐに追い付かれる。



「離して?」

「俺から逃げようだなんていい度胸だな?」



彼の指が私の髪を絡めとると、口元に近付けてキスを落とす。



「離してっ」

「ふーん」

「何よ!!」

「さっきは逃げなかったのに?」



寒さに負けずと顔が火照りだす。

図星なだけに言い返すこともできなくて口籠もる。


く、悔しい……。



「もう一回、する?」

「バカ!!」



ついさっき、キスをされそうになって避けなくて。

自分の気持ちがよく分からない。

完全に彼の手の平の上で操られているみたい。



「俺はまだ足りないんだけど?」

「えっ? ……ん、んーっ」



髪に落としていたキスは、再び私の唇を激しく奪う。

快感の波が押し寄せてきて、抵抗する力は次第に抜けていく。


悔しいけど、気持ちいい……。


重なり合う唇の上で舞い降りてきた雪が溶け、体の熱はさらに上昇していく。


ようやく離れた唇に、恥ずかしさでいっぱいになった私は、逃げるようにその場を立ち去った。


――――――
――――





< 9 / 26 >

この作品をシェア

pagetop