運命の歯車-不思議の国のアイツ-


アヤとの約束は、今日の午後4時に駅。



リョウの勤めるケーキ店からは、すぐ近くの駅まで歩いて、そこから、ちょっと電車に乗って降りるだけの距離。



アヤに1時間前には、行っておいてやると宣言したので、2時にケーキ店の仕事を上がらせてもらって、行けば、時間的には、余裕がありすぎるくらいだ。



当然、ケーキ店の店長には、前もって話を通しているので、何の問題もない。



しかし、それまでの時間が、待ち遠しくていけないのだ。



時間というのは、ニュートン力学的には、常に一定で進むが、アルベルト・アインシュタインの提唱した相対性理論では、時間の進み方は、重力の影響を受け、一定ではない。



まさに、今のリョウの気持ちとしては、ニュートン力学的ではなく、相対性理論的な時間の進み方なのだ。



リョウの心は、まるで重力から解き放たれたように軽くなり、そのため、時間の進み方が、リョウの体が感じる時間より早くなってしまったように感じ、結果、まるで時間が進むのが、普通よりも遅くなったかのように感じるのだ。



当然、リョウが、アルベルト・アインシュタインの相対性理論の時間の理論など知るわけはなく、ただ、リョウは、何度も時計を見ては、ため息をつくのみであった。








リョウが、店内の時計を見た回数が、100回を軽く超えた時、リョウの後ろから声がかかった。



「おい、リョウ。もう、上がっていいぞ。」



時刻は、昼過ぎの1時30分。



あまりのリョウの落ち着きの無さに、見かねた店長が、気をつかったのだ。



「・・・本当ですか?」



これまで、店長に見せたこと無い笑顔で、振り返るリョウ。



そのリョウの笑顔を見て、店長は、苦笑いを浮かべ、「その笑顔で接客もしてくれるといいんだけどな。」とこぼした。



「す、すいません。」



リョウは、自分でも自覚があったのか、店長に軽く頭を下げた。



しかし、頭を下げる最中も、リョウの口元からは、にやけていた。

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