明日は
SCENE 14
「子吉沢英夢!」

 大佐古教諭は体育館に響きわたるように言った。卒業証書は一人ずつ校長から手渡されるので、欠席していようが、呼ぶのである。

「はい!」

 子吉沢は返事をした。両親が離婚して名字も変わるので、この名で呼ばれるのも最後である。

 体育館は静かだった。卒業式でなければ、ざわめいたかもしれない。

 子吉沢は校長の前に向き合った。

「卒業おめでとう」

 と、校長は一言だけだった。

 子吉沢の歩く音が体育館に響いた。大佐古教諭が次の生徒の名を告げると、いつの間にか足音は消された。

 来場の父兄や在校生が見守る中で、卒業式は淡々と行われた。最後の生徒が卒業証書を受け終わると、生徒たちは歌うのだ。
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