とんでも腐敵☆パートナー
「でも今は朽木、なんだよね」
 
「風の噂に聞いた話だと、高校ではもう朽木姓を名乗ってたらしいよ。色々と謎の多い人だから、僕もよくは分からないんだけど……。僕の中学は上流階級の子が集まる名門校で、大学までエスカレータ式だったんだけど、先輩は別の高校に行ったんだ」
 
 姓を変えて、別の高校に移る――まるで人生をやり直したみたい。
 
「高校時代の先輩がどんな風だったかは知らない。僕はただ漠然と憧れてただけで。遠くに行ってしまった先輩のことを追いかけてく勇気なんてなかった……」
 
 強い憧れ。眩しい存在。強烈な印象を心に残して消えた朽木さん。
 
 懐かしそうに回顧する章くんの瞳は、だけど不意に暗い影に覆われた。
 
「僕の父さんは弁護士でね。子供の頃から、お前もいつか法廷に立つようになりなさい、弁護士を目指しなさい、って言われて育ったんだ」
 
「へー。弁護士か。凄いね~」
 
「僕は一人っ子だったから、両親の期待を一身に背負ってた。でも、僕の成績はなかなか上がらなくて……苦しかった。両親の期待に応えられない自分が悔しくて、恥ずかしくて……お前は気が弱すぎるって、何度父さんに叱咤されたか分からない。神薙先輩は、僕の欲しいものを全て持っていたんだ」
 
 なるほど。朽木さんに憧れるわけだ。
 
 謙虚さなんてカケラもないもんね、朽木さん。
 
「あんな風になれたらいいなって、思うのと、あの人と少しでもいいからお話してみたい、って思うのとで、先輩への憧れは、先輩が卒業してからもますます強くなって……ずっと……ずっと、会いたかった。それが、去年の秋、叶った時は本当に嬉しかったよ」
 
 再び幸せそうに目を細める章くん。
 
 朽木さんがどれだけ章くんにとって特別な存在だったかが窺える。
 
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