とんでも腐敵☆パートナー
「これも一口味見させてくださいなー」
 
 と、不意にグリコが俺の皿から野菜炒めを一盛りつまんで持っていった。
 
 まさに泥棒猫。
 
「勝手に盗るな!」
 
「心が狭いですねー」
 
「マナーの問題だ!」
 
「代わりにあたしの野菜あげますから」
 
「メインディッシュに対して付け合わせを返すかお前! 等価交換て言葉を知らないのか!?」
 
「野菜と野菜は等価です」
 
 なんでこんなくだらない会話をしなきゃいけないんだ。
 
 拝島の前だというのに、思いっきり声を荒げてるし。
 
 どうもこの女と喋ると、ついつい地が出てしまう。仮面が簡単に剥がれてしまう。冷静になるんだ。この女のペースに乗せられるな。
 
 俺は苛立ちを鎮め、とりあえず食べることに集中した。
 
「そういえば、昨日はどうもすみませんでした、拝島さん」
 
 最後の唐揚げを咀嚼した後、唐突にグリコが謝罪を口にした。
 
「そういえば」じゃないだろ。まず真っ先に謝れ。こいつは道徳の教育を受けてないのか。
 
「ああ、気にしないで。もともとは俺がサイドブレーキを引き忘れたのがいけなかったんだから。どうせほとんど買うつもりだったし、あのミニ。踏ん切りがついて丁度良かったよ」
 
「それなら良かったです」
 
 良くはない。車の代金に修理代が上乗せされたのは、ほぼこいつの責任だ。
 
「ところで、今日これから色々案内してあげたいところなんだけど……午後一から講義が入ってるんだ。残念ながら付き合ってあげれないんだけど、一人で大丈夫? 栗子ちゃん」
 
「平気ですよ。私も学食食べに来ただけですし。あと、図書館も見てみたいから適当に本読んで帰ります」
 
 は? やけにアッサリしてるな。
 
 俺は驚いてグリコをまじまじと見つめた。
 
 てっきり一日中付き纏って、色んなことを根堀り葉掘り訊いてくるかと思ってたんだが。
 
 ……………………何を企んでるんだこいつ?
 
 俺は訝しげな視線をグリコに送った。
 
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