とんでも腐敵☆パートナー
「嘘……?」
 
 ぎぎっと音がしそうなくらいゆっくりあたしに顔を向け、やっとな感じで言葉を紡ぎだす。
 
「うん、ごめん、嘘だったの。一緒に歩いてたの見ただけ。カメラも持ってなかったし、写真なんか撮ってなかったりして」
 
 てへ、と笑って首を傾けるあたし。
 
 嘘なんて、あんまり沢山抱え込むモンじゃない。
 
 あたしは既に、朽木さんの後輩だって嘘をついてるから、これ以上の嘘を抱えるのは面倒だったのだ。
 
「お前な……」
 
 怒りの気配が湧いてきたので、慌ててバッグからある物を取り出し、朽木さんに差し出しながら言った。
 
「ごめんごめん、そんなに怒んないで! これあげるから!」
 
 それは必殺の奥の手。
 
 訝しげに眉をひそめた後、朽木さんはあたしの手からそのある物を受け取り、眉間に皺を寄せたまま目をやった。
 
「……これは……」
 
 朽木さんの目が驚きで見開かれる。
 
 続いて、優しい光を帯び始め、ふっと表情が柔らかくなる。
 
 あたしはその様子に満足し、得意気に鼻を鳴らした。
 
「なかなか良く撮れてるでしょー? 笑顔がキュートだよね」
 
 そう、それは拝島さんの写真だった。
 
 ここ数週間というもの、毎日のように拝島さんと朽木さんを隠し撮りしてたあたしは、決定的瞬間といえる写真を何枚か激写していたのだ。
 
 拝島さんの場合は、真っ青な空をバックに、眩しいほどに輝く笑顔。
 
 よく笑う拝島さんだけど、この写真の笑顔は特にキュートだった。穢れを知らない少年のように煌めいている。結構アップで撮れてるし、渾身の一枚。売ったら高いよコレ。
 
 他にも木漏れ日の中、並木道を歩く、一枚の絵のような写真や、ベンチにもたれたまますやすや眠る、天使のような寝顔の写真もある。
 
 どの写真も晴れの日の屋外なのがポイント。拝島さんは青空の下にいる時が一番輝いてるのだ。
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