とんでも腐敵☆パートナー
 だがそれも一瞬のこと。すぐさま我を取り戻した俺はその首根っこを掴んで引き戻した。
 
 今日のグリコはフード付きパーカーを羽織ってるのでフードを掴むことであっさり引き寄せられる。「うにゃっ」とか奇怪な声をあげながらバックステップを踏んで俺の胸に当たって止まるグリコ。
 
「お前はこっちだ」
 
 言って俺はそのまま歩きだし、グリコを自分の車の場所にずるずると引き摺っていった。
 
「えーっ! そんな可愛くない車やだー! 拝島さんのミニちゃんがいいー!」
 
「うるさい。黙れ。拝島にお前を近付けさせるわけにはいかん」
 
 ムッとしながら、低い声で耳元に囁く。
 
 くそっ。不愉快だ。一瞬でも面白くないと感じてしまったことが不愉快だ。
 
「なんだー? 朽木はえらくグリコちゃんにご執心なんだな。保護者みてぇ」
 
「確かに気分は保父さんだけどな。こいつは目を離すと何しでかすか分からないんだよ」
 
 高地の余計な突っ込みに軽く肩をすくめてみせた。拝島が誤解しなければいいが。
 
「まぁ確かにグリコはいつもやらかしてくれるからね」
 
 感情の見えない顔で同意してきたのは、グリコの友人の立倉という女だ。
 
「そこが面白くもあるんだけどね」
 
 十代とは思えない大人びた笑みを口許に称えるもう一人の女は確か池上か。
 
 グリコは普段から周囲に迷惑を撒き散らしてるらしい。友達にもこの言われようか。
 
「ぶーっ! そんなに常識なくはないよ!」
 
『いや、ない』
 
 俺と女二人の声が申し合わせたように揃った。
 
「あははははっ! 保護者が三人もいれば安心だね、栗子ちゃん!」
 
「拝島さん、笑いすぎです……」
 
 まだぶうたれてるグリコを後部座席に放り込んだ。ミニに比べると広い車内。確かに図体のでかいこの車は「可愛い」という形容詞は似合わない。色も深い青――モナコブルーだ。だが、黒塗りのベンツなどに比べればまだ可愛気があると思うんだが。
 
 それから女二人が適当に分かれてそれぞれの車に乗り込み、どうにかこうにか出発となった。
 
 まったく、先が思いやられる。
 
 
 波乱の予感にため息をひとつ落とした。
 


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