君へ

24

「夜が、寒くて」
抱き締めたら自然と言葉が溢れた。
「え?」
「近くに行きたかった」
ぎゅ。
抱き締める。
温かい。
生きてる。
傍にいる。
なおの横は温かい。
「あた、たかいね」
そうだね。
「うん。なおは温かいね」
なおが何か言いたそうに(きっと俺の方がとかつまらない事が言いたかったんだろうけど)見上げてきた。
目が合う。
此処で普段のなおはすぐ恥ずかしがって俯いてしばらく顔を上げない。
でも今は、俺をじっと潤んだ瞳で見詰めてる。
頬と唇がほんのり色付いていて、そんな気ないのは本当に分かっているのだけど、誘っている用にしか見えない。
時間にしたら数秒の間でも目に焼き付け用としっかり見詰めるととても長く感じる。
その瞳がふっと下を向く。
金縛りにあったみたいに止まっていた時が動く。
ぽす。
伏せられて表情は見えないが体がこちらに寄り掛かり頬がつく。
ゆらりと影を作る前髪から見える頬が赤い。
その赤を見て、今は隠れてるあの煽情的な瞳と唇が蘇って勝手に体が動いていた。

キスしていた。
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