天使はワガママに決まってる




しばらくして隣の屋台を覗くと、
チビ二人は嬉しそうにビニール袋の
巾着を眺めていた。
中ではそれぞれ2匹ずつの金魚が泳いでいる。


「見てーっ!これ捕まえたぁ!」
「ま、おまけしてもらったんだけどね。」
「仁兄ちゃん、どこ行ってたんだよー!」


永遠子の弟のその質問に、
俺は答えを曖昧に濁して
さっき買ってきたたこ焼きを差し出した。


「ほらよ。お前らは向こうで仲良く
 たこ焼き食べとけ。」
「「わーっ!!ありがとー!」」


まだ温かいそれを受け取った二人は、
屋台の裏の人の少ないところへ駆けていく。

永遠子は宮塚のくせに珍しい、と
不思議そうな顔をしてその後に続いた。


「あー疲れたーぁ。」
「…だな。」


結構な距離を、しかも走り回っていたので
この暑い夜に汗が滲む。
永遠子の額にも薄っすらと汗が光っていた。


少し離れたところの石に座る二人が
たこ焼きに夢中なことを確認し、
俺はぎこちなくポケットに手を突っ込んで
そこにあった小さな物を取り出した。


「ほら。」
「……え、これって…。」
「さっきの、指輪。」


想像していた通りの永遠子の表情。
俺は軽く微笑んで、
指に摘まんでいた指輪を彼女に手渡す。

キラキラ光るシルバーの指輪は
細身に一本の波打つラインの入ったシンプルなもので
裏側にはtowakoと彫ってもらった。


「わ…っ!名前まで入ってるしー!」
「店の人がさ、入れてくれたんだよ。」
「へぇ…でも、何でこれ?」
「や…それ、は。」


永遠子がジッとそれを見ていたのを
見ていたから――…

なんて、恥ずかしくて言えない。


「あたし、これ可愛いなーって思ったんだよね。
 宮塚エスパーじゃん!?」
「まぁな。さすが俺だな!」
「あははっ!一人で言ってろー!」


指輪を眺めながら嬉しそうに笑う彼女に対し、
俺の顔は赤くなるばかりだ。


(喜んでくれて、よかった)


自分でもおもちゃの指輪をプレゼントするなんて、
安っぽくてダサイとは思ったけれど
いつまでたっても永遠子に想いを伝えられない俺の
些細な悪あがきだった。
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